毎日新聞「今週の本棚」 2024.6.1
山本理顕他『地域社会圏主義』トゥーヴァージンズ
本書は2012年に刊行され、翌年増補版、2023年10月に復刊された。主著者である山本理顕氏は2024年に「建築界のノーベル賞」とも称されるプリツカー賞に選ばれた。
山本氏は事件や災害が起きるたびにセキュリティとプライバシーを高めてきた「1住宅=1家族」は地域コミュニティから「隔離」されるとし、本書では賃貸の公的住宅を提案している。今回の受賞理由は「建築を通じたコミュニティ創出」だった。
山本氏の「1住宅=1家族」批判には、15年の『権力の空間/空間の権力』(講談社選書メチエ)がある。ハンナ・アレントの『人間の条件』(ちくま学芸文庫他)に登場する私的でも公的でもない領域「no man’s land」を、「無人地帯」ではなく住宅における「閾(しきい)」と解釈、プラトンの「饗宴」でも使われたような部屋を古代ギリシアの間取りに見出している。
バラバラに建ち並ぶ戦後の住宅群に景観の秩序が備わらないのも、個人住宅が都市に通じる「閾」を欠いているからなのだ。本書はエネルギーや相互扶助をも地域社会で共有する「閾」を備えた住宅を提案している。
仮想地域が2つ挙げられ、下町で緑の乏しい横浜市鶴見区の「郊外高密モデル」では6階建て(ha当たり750人)で緑溢れる公園を配し、中区不老町の横浜文化体育館の建替を想定する「都心超高密モデル」だと高齢者を主に地上8階地下1階(同1500人)としている。