森山高至『ファスト化する日本建築』扶桑社新書
中島岳志・堀部安嗣『建築と利他』ミシマ社

環境に即して長持ちさせるために時の経過や循環を用いる伝統が、長く続く不況のただ中にあって短期的に利益を上げる目的から日本建築のあらゆる方面でうち捨てられつつある。

短期的に見栄えがするが長期的には「腐る」公共建築。建築物の外観を街並みに揃える手間暇を省き、一望できないほど巨大化した「ショッピングモール」。大規模改修が必至であるのに全世帯での積立金が覚束ない「タワーマンション」。大工の棟梁のように現場全体の責任を担う人がいなくなった「建築人材」。共有されてきた神社や公園の土地を不動産会社が私有化する「都市再開発」。景気対策にすらならない五輪大会を誘致した「国家」。建築物の「ファスト化」だ。

対照的に、近代建築の利点を取り込みつつ、伝統建築の美点を継承する建築家として堀部安嗣氏を紹介する。