毎日新聞「今週の本棚」 2023.5.6
廣末登『テキヤの掟』角川新書
三社祭が、コロナ禍を経て従前通り開催されている。焼きそばやりんご飴を売り捌く三寸屋台も賑わうだろう。ところが売り子の「テキヤ」はいま危機に瀕しているという。「フーテンの寅さん」でお馴染みの、あのテキヤだ。
本書はその理由とし2010年頃に各自治体で施行された「暴力団排除条例」(暴排法)を挙げる。 寅さんは暴力団じゃないだろ、とのツッコミが聞こえそう。ところがこの条例では、警察が認定する「密接交際者」は即「暴力団関係者」となる。
著者はインタビューを通じて「人はなぜヤクザになるのか」を学術的に探求、博士号を取得した社会病理学の研究者である。うつ病のリハビリを兼ね、地元のテキヤ組織に従事した経験を持つ。
著者はテキヤを「祭りという場、縁日という空間をプロデュースする専門家」と呼ぶ。けだし明言。密接交際者を申告し、伝統文化の担い手として生き残ることを望む。巻末には著者蒐集によるテキヤとヤクザの貴重な隠語集も掲載。