毎日新聞「今週の本棚」 2022.10.15
吉川祐介『限界ニュータウン』太郎次郎社エディタス
2017年、東京都江東区で隣家の生活音に囲まれる路地裏の古家に住んでいた現場労働の男性が、結婚を機に千葉県八街市内の分譲地に転居する。
人影もまばらな田舎町である。ここで男性は土地と中古住宅を購入し二人静かに生きていこうと決心、物件探しを開始する。対象は千葉県北東部の北総台地、電車でいえば佐倉まで複線の総武本線が終点の銚子まで単線になる区間である。
そこで男性は奇妙な光景に遭遇する。公共交通の空白地帯で大半の区画が空き地、往来のない場所に立つ「売地」の看板。雑草に埋もれた空き家や舗装が剥がれ陥没のある私道、杉林の奥には管理されず雑木林に戻った分譲地もある。
男性はそうした分譲地事情をブログで紹介、YouTubeに動画を公開していく。驚くべきことに、男性は文才と分析力に恵まれていた。ブログ「限界ニュータウン探訪記」、「資産価値ZERO」の副題を付したYouTube動画もアップして、90万再生を超える回もあるほどの反響を呼ぶ。狭い日本で土地がまだらに放棄され、集約もままならない様子が活写されている。
鋭い観察眼に唸らされる。不動産業者でもない著者はいったい何者か。それが最大の謎だ。
※後日談。
本書評は、奥付の出版日に掲載された。そしてこの末尾の文章を読んだ吉川さんのお母様は爆笑し、また「ブログ」なるものへの疑惑も解いて下さったという。嬉しい限りだ。https://urbansprawl.net/archives/20230825.html