脇田成『日本経済の故障箇所』日本経済評論社

今世紀に入ってからの日本経済は資本主義ではない。ここで言う「資本主義」とは、企業家が銀行から借り入れたり、株式を発行して他人資本を集め、不確実性である世界に挑む経済制度、という程の意味である。

だから構造改革であれ、アベノミクスであれ財政再建であれ、標準的な経済政策は日本経済の建て直しには使えない。なぜならそれらの経済政策は、アメリカの健全な資本主義を対象として講じられてきたものだからだ。

癌の手当に胃潰瘍の薬を処方するようなものだが、何故そんな取り違えが起きるのか。「海外発の教科書的知識を若い世代は鵜呑みにすることが制度的に促進され」、「日本経済の特殊事情を考慮せず」分析を進めるからだと著者は言う。自身は古典派やケインズ派について紹介するテキスト(第3版『マクロ経済学のナビゲーター』日本評論社)を改訂し続ける正統派の経済学者である。

 著者は日本経済の不振の真因を過剰な企業貯蓄すなわち「内部留保」に見出している。本書が圧巻であるのはその先だ。無数のデータを挙げ、自作の図版をちりばめて、日本経済の故障箇所の全体を詳細に洗い出すのである。

 著者は言う。長期の不況が続いたのは、企業が過剰に貯蓄し設備に投資しなかったからだが、それは家計の消費が過少であるせいだ。そこで「賃上げ」を対策として打ち出している。