毎日新聞「今週の本棚」 2023.9.16
R.D.パットナム、J.R.ギャレット『上昇 アメリカは再び【団結】できるのか』創元社
2021年にアメリカで勃発したトランプ支持者による合衆国議会議事堂襲撃は想像を絶する事件だった。民主主義を、誰を支持するのか以上に投票結果を尊重することだとみなすなら、アメリカはもはや民主主義の体をなしていない。いったい何が起きているのか。
著者のうちR.パットナムは個人間のつながりや、見返りを求めずコミュニティに参加する社会的絆を指す「社会関係資本」を政治学において提案したことで知られる。「社会関係資本」はいまや経済や社会の分析にも応用されている。
本書ではさらに膨大かつ多種多様なデータに分け入り、「市民のつながりの衰退」が社会だけでなく経済、政治、文化と領域を拡げても見出せること、しかも衰退は125年前の19世紀末にも起きていたことを精密に論じている。
20世紀後半には再び衰退が始まる。著者は経済にかんしては所得平等、冨の平等、世代間経済移動性、絶望死の数、組合加入率、税における累進性、金融規制や最低賃金等から「経済的平等性」の度合いを数量データで示し、1913年から2015年の期間で上昇と下降の「逆U字カーブ」を導出している。 「経済的平等性」「政治的礼譲」「社会的連帯」「コミュニティ対個人主義」の軌跡が、ほぼ重なり合うのだ。作図の努力とこの発見が本書の目玉である。