J.ローゼンフェルド『給料はあなたの価値なのか―賃金と経済の神話を解く―』みすず書房

「神話」とは経済学界と世間で信じられている通説。給料は各人が組織に貢献した成果に相当する(人的資本論)、ないし仕事固有の重要性を反映するとされる。給料は個人の働きや職種の重要性という「価値」を反映しているという常識に、社会学者が果敢に異を唱える。
 格差は経営能力やIT技能、職種の重要性では説明できない。それに対し著者が格差の源として注目するのが経営者と株主、労働者の権力闘争、つまり職場における社会的な力関係である。
 著者は「職場内の力関係を再構築する」こと、とりわけ最低賃金の引き上げを提案している。賃金は労働の需給で決まるのではないから雇用は減らず、一方で生活苦による自殺率や再犯率が低下するという。
本書は「個人」に注目することで経済の現状維持を図る経済学に向け、「関係」を重視する社会学が仕掛けた権力闘争でもある。