人文・社会部門

松隈洋『未完の建築 前川國男論・戦後編』みすず書房

松原隆一郎講評

前川國男(1905-86)は戦前にモダニズム建築を修得し、戦後には上野の東京文化会館や熊本県立美術館等の作品を多数残した大建築家である。ところが没後、傾斜屋根の有無といった様式に注目し、戦中に右傾化したと断罪する評論が現れた。また近年ではコンクリートの耐用年限から取り壊されるビルもあり、前川建築は危機に瀕している。著者が戦前編の『建築の前夜 前川國男論』に続き前川モダニズムの意義を世に問うた理由はそこにある。