L.ランダル・レイ『ミンスキーと<不安定性>の経済学』白水社

MMT(現代貨幣理論)は「財政は赤字が常態であり均衡を目標にする必要はない」と財政出動を唱え、財務省や日銀のリーダーたちが「高インフレになる」と批判を重ねた。ところが財務省や日銀がコロナ対策に巨額を充てたのは、MMTの政策そのもので、それでもインフレの気配はなく、MMTの言い分が勝ったのは明白だった。
本書ではその中心人物であり『MMT 現代貨幣理論入門』(東洋経済)の著者であるランダル・レイが、米ワシントン大学で授業助手を務めた際に謦咳に接したハイマン・P・ミンスキーの難解な経済思想をコンパクトに紹介したもの。
ミンスキーはケンブリッジのケインズ左派との絡みで語られることが少なくなかったが、ケインズに学んだのは企業による投資支出の変動を景気循環の駆動力とみなす「景気循環の投資理論」まで。ミンスキーはそこに「投資の金融理論」を加え、ブームにおける楽観が負債を増加させ金融の脆弱性を生み出すと唱えた。
ただしミンスキーの金融不安定性を短期的な景気循環論としてのみ理解してはいけないとレイは付け加える。この指摘が本書の目玉だろう。資本主義は金融構造の異なる段階をたどり、投資を内部留保で賄う「商業資本主義」、投資資金を銀行が担う「金融資本主義」、それが1929年の大恐慌で崩壊した反省から規制により管理する「経営者・福祉国家資本主義」、年金基金やヘッジファンド等のシャドーバンキングが規制緩和とともに生み出した「マネー・マネージャー資本主義」の段階で今次の危機に立ち至ったとするのである。制度が歴史を動かし「金融」が「産業」を支配するという解釈であるから、T.ヴェブレンの制度学派の末裔という評価こそがふさわしい。