(5月某日)
年初に見た芝居「最悪だ!」があまりに面白かったので、主演した坂井宏充さんに誘っていただいて、彼がオーディションを経て出演することになった劇団「イキウメ」の全国公演・三限茶屋での『散歩する侵略者』を鑑賞する。
いや、これほど面白いとは。
人気の劇団というのも多少は見たが、抽象的だったりどこかちぐはぐだったり、終演後にグッとくるというのは滅多にない。それがこの芝居の終盤、観客席は鼻水をすする音。そう、みなさん泣いているのだ。
芝居は、宇宙人が侵略してきてある街の住民から「家族」や「神」といった「概念」を奪う、という荒唐無稽なもの。
ところがそのままだと、物語は宇宙人が帰還したあと、概念を奪われた人々が残る、というだけになる。いったいどうやって話を終わらせるのかと思ったら、ネタばれになるから書かないが、予想通りのオチ。
あらら、と思っていたら、夫婦役の役者2人がとんでもない演技の力業で抽象的な局面をねじ伏せてしまうのだ。抽象概念で劇場を泣かせるのだから、凄いとしか言いようがない。
役者は誰も彼も競い合っていて、白熱。いささか狂気の気配もある。
坂井さんも、狂う友人につきあって「戦争だぜ!!」と喜んでいたが、だんだんおかしいことに気づいていく、という唯一まともな人格の役柄。狂気から白けて正気へ、という難しい役所だ。このまま全国で狂気と感銘を振りまいていただきたい。
他に美人なのに浮気されてる伊勢佳世、宇宙人中学生・大窪人衛、大友克洋の短編キャラみたいな森下創と、(私は初めて知ったが)芸達者揃い。ギラギラしている。凄し。
http://www.ikiume.jp/index.html