エリカ・トンプソン『数理モデルはなぜ現実世界を語れないのか』白揚社

 誰もがその利益から排除されない「公共財」の例として、経済学のテキストでは多く国防や灯台が挙げられるが、近年では金融危機や気候変動、パンデミックに対する防止活動に、よりリアリティを感じる。興味深いのは、それらがともに「数理モデル」で解析されていることだ。

 著者は「もっともシンプルな気候変動モデル」を提案した気候物理学者。数理モデルの専門家として金融危機やパンデミックにも通じており、本書はこれら三分野を例に数理モデルの意義と限界を論じている。

 難解な数理モデルの専門家は、仮説を過信してモデル内部に閉じこもり、リスクを過小に見積もりがちだが、予測がはずれれば現実世界に出て、金融や気候、疫病の危機に対して説明責任を負うべきと唱えている。