大井浩一『批評の熱度 体験的吉本隆明論』勁草書房。

お宅に頻繁にお邪魔した学芸記者が、人となりと絡め全業績を解題。
『共同幻想論』は「個人幻想」「共同幻想」に恋愛や家族をめぐる「対幻想」を対置したことで包括性を持ったとするが、A.スミスにおける利己・国家以外の共感関係を連想する。

スミスは対の感情を倫理の経験的基礎と主張するためにプラトン、アリストテレスから中世神学まで既存文献として絨毯爆撃的に批判する構成をとるが、吉本は男女の恋愛と家の葛藤、個人と国家の葛藤を物語の発生する場所とみなし文学理論を立てる。
学術と文芸で書き方が異なり、結論は接近している。