ホルヘ・アルマザン+Studiolab『東京の創造的アーバニズム』学芸出版社

東京は「なぜ」「どのように」東京になったのか。「東京学」は戦後幾度も語られてきたが、居住エリアの比較をマドリッドと東京で実証研究したこともある著者には、それが日本文化異質論の亜種に映るらしい。安易に「民族的傾向」に還元せず、データベースを読み解き特徴を可視化すれば、東京の街並みは法規制や経済性に起因する。
著者はそのような東京独自の「創発的エコシステム」として、横丁、雑居ビル、高架下建築、暗渠ストリート、低層密集地域の5つに注目している。住民が「秩序や機能をボトムアップで自発的に創造」しているとして、3例ずつ環境、詳細、店舗の断面パース・平面パース、隙間空間のマッピングなど美しい図を付し紹介している。
都市計画家と行政がトップダウンで設計したマスタープランや大企業主導の再開発は、海外にはありふれている。家族や個人が少ない資金で起業した小規模な店舗群が、競争しつつも協力・共存し、「集積の経済」を自生させた現象こそが瞠目に値する。多孔質で透過性あるネットワークが特徴の親密な空間だ。
水平な横丁を垂直にしたのが雑居ビル、という表現には膝を打った。新宿・靖国通りの雑居ビルは不思議なことに事業者が入れ替わり個々のサインや看板が変わっても建築的統一感が維持されているが、そこから新宿・ゴールデン街という横町へ向かう「深夜食堂」のオープニング映像は、東京独自の情景だったのだ。