共著『猪木とは何者だったのか』集英社新書
松原隆一郎「1000万人に届く言葉を求めた人」
猪木は不器用でスター性のないレスラーたちから潜在能力を引き出し、自分とともに高みに達する。タイトルも持たず無名のレスラーが、突如リングで化けるのだ。観客の期待通りを演じるのではない。期待していなかった潜在力を披露し、テンションと快感が観客に降り注いだ。
地上波テレビで放映されるには、視聴率10%で1000万人の視聴が必要になる。1000万人を振り向かせるには、1000万人に通じる演出と語らせる言葉が不可欠だ、そう猪木は信じていたと思われる。
不思議なことに、プロレスを引退してから猪木の言葉は息を吹き返した。「元気ですか!元気があればなんでもできる」。いったい何を言っているのか。そして「人生のホームレス」。闘いから解放されてからの猪木の言語センスは、目覚ましい域に達した。1000万人に届く言葉である。猪木にとって重要なのは、闘いではなく多くに伝わる言葉だった。