毎日新聞「今週の本棚」 2024.11.9
稲葉陽二『ソーシャル・キャピタル新論』東大出版会
語られるテーマが「表立って表現されることのない苦しみ」。
冒頭、具体例が列挙される。「なぜ賃金は目減りするのに経営者報酬だけ上がるのか」。「なぜ現場の営業部長が自腹で保険料を支払って、契約を捏造するのか」。「なぜ図書館で非正規雇用の司書が低賃金でやりがい (頑張りたい情熱)搾取にあうのか」。「なぜ忖度した官僚は記憶を失うのか」、等。
理論として著者が挙げるのが「マクロ・ミクロ=リンク」。もとはJ.コールマンの発想で、社会における因果関係にはマクロからミクロ、ミクロからミクロ、ミクロからマクロへという次元を替えて推移するリンクがあるという。ところがミクロ間の因果関係だけ見てマクロに視野が及ばないと、現場で検査飛ばしを犯したのは誰か、なぜコンプライアンスを遵守しなかったのかに説明が終始してしまう。特定の従業員が罰せられ、「企業風土の改善」が叫ばれて、第三者委員会の報告は終了する。そこに「違和感」を持たないか、というのが本書の問いかけだ。