鈴木宣弘『協同組合と農業経済』東大出版会

変革が必要だとしても、それは政府に巣くう一部エコノミストが主張するタイプの「改革」ではないのではないか。そうした新自由主義路線こそが日本経済の足を引っ張っているのではないか――。
本書が注目するのは経済学者J.K.ガルブレイスが打ち出した概念の「拮抗力(カウンター・ベイリング・パワー)」である。
経済の現実はビッグ・ビジネスの寡占状態にある。農業でいえば、地球を股にかけるグローバル食品企業や穀物メジャーが価格支配力を持ち、家族経営の零細農家から農産物を買い叩き、種子を含む生産資材を高く売りつけようと狙っている。
ところが戦後、日本の農家は自発的な共同管理と相互扶助を理念とする協同組合の農協を結成する。農協は共同販売と平等分配によって成長し、巨大企業と拮抗するまでの価格支配力を勝ち取った。「改革」の真意は、そうした拮抗状態を崩すことにある。
本書後半では、団結はするが内部では平等という協同組合を厳格な理論モデルで定式化し、さらにビック・ビジネスと協同組合の価格支配力を比率ごとでシミュレーションにかけ、拮抗した方が経済全体の厚生が改善する様子をデータで示している。