浅草キッド『キッドのもと』ちくま文庫

漫才コンビ・浅草キッドの二人が生い立ち・コンビ・芸・家族の「もと」につき、それぞれ述懐する自伝風回想録。
世の「正しさ」は、おおよそ受験勉強-大学-就職というレールが決める。そしてこのレールにどうしても乗れない若者がいる。片や倉敷で日本庭園を備えた大邸宅の御曹司。相方は親夫婦が雀荘やホモスナックを経営する西新宿育ち。ともに軌道から外れビートたけしの押しかけ弟子として出会う。
しかしたけしもまた、修行につき何のレールも敷かない。日当千円のストリップ劇場で睡眠時間を削りながら芸を磨く日々。それも劇場の経営破綻とたけしの襲撃事件で頓挫する。年金生活者と見紛う年齢の踊り子さんともに金属バットで舞台を破壊するシーンには、青春のやるせなさが爆発する。
のちに二人は世のレールからの「ズレ」を独自の視点として生かし、芸を確立してゆく。社長や政治家といった「濃い」キャラクターいじり、梶原一騎への共感、スナック愛、メルマガ編集。親になり、かつて自分の「育て方を間違うた」と嘆いた父母へ感謝を述べるくだりには胸に迫るものがある。人生は無二と知らされる書。