毎日新聞「今週の本棚」 2024.2.10
金丸裕子『自由が丘画廊ものがたり』平凡社
日本人画家の抽象画が内外のオークションでブームを呼び、1950~60年代の作品は億の桁で売買されている。だが芸術は市場の存在も定かでない時期にこそ息づいている。
「自由が丘画廊」は定評あった銀座の南画廊や東京画廊と離れた東横線に、1968年から約30年間実在した。もの派や「具体」の画家や評論家、画商やコレクターが連日どこからともなく集まり、真価を論じ情報を盗むという、抽象画の市場形成にともなう熱を帯びた交流を繰り広げたという。
その場を支えたのがオーナーの「実川暢宏」だ。本書は、現在は都心に隠棲する実川からの丹念な聞き取りを軸に、戦後現代美術の青春時代をリアルに再現する。