毎日新聞「今週の本棚」 2021.9.4
ゆうきまさみ『新九郎、奔る!』小学館、全7巻、連載中
従来は観音寺潮五郎の『武将列伝』(1959~63)に代表される「一介の旅浪人から身をおこし」「五八から六〇までの間にやっと一城の主になれた」老齢の素浪人が地盤のない関東で下克上に挑み戦国大名の魁となったという北条早雲像が定番だった。
ところが最新の研究から決定版伝記とされるのは黒田基樹『戦国大名・伊勢宗瑞』(2019、角川選書)で、早雲は出家前は伊勢新九郎盛時で、浪人どころか室町幕府の有力官僚。備中伊勢氏の庶流、荏原(現在の岡山県井原市)に領国と高越城を持ち、年齢は24歳は若かったというのが黒田説だ。
新九郎が城主館で東西伊勢氏および那須家を和解させる仲介役に「庄伊豆守元資」を引っ張り出すが、伊豆守元資は1491年、吉備津神社や周辺の倉を襲撃し500人が死亡するという「備中大合戦」を起こし、下克上の最初期に不穏な存在となった。
私が『荘直温伝 忘却の町高梁と松山庄家の九百年』吉備人出版)で紹介した庄家は、荏原の伊勢家領国の東隣(現在の井原線で隣駅)にある草壁の庄と猿掛城を本拠地とし、先祖に高梁の松山城主・庄為資を持ち、その父が「元資」とされる。しかし私見では、為資の父・元資とこの伊豆守は別人物。そのあたりも不思議な歴史漫画だ。