最終回 前川國雄が示した普遍と特殊

社会が達成したある成熟の高みが、一時的な流行や競争、権力による強制などで破壊されつつある。
変更を加えることそのものが破壊行為なのではない。一切変えないことに固執して現実に適応できなければ、伝統は消滅してしまう。伝統は複雑さを保ちつつ更新されることで、生きながらえることができる。一見したところは進歩主義的であり伝統破壊的であるかに見える外来の「モダニズム建築」にも、配慮によっては伝統を維持する面があった。
けれども前川國男の作品は、コンクリートや鉄が劣化するだけでなく、建築工法やIT技術の近年の進化を取り入れていない。材料が劣化するというモダニズム建築の弱点は、その一方でリニューアルする時期にそうした技術を取り込むチャンスを与えているとも言える。
常に最先端の工法や技術を取り入れつつも、古くからある空間構成において感じ取れる居心地のよさも手放さない。そうした発展し続ける伝統は、藤井厚二から堀部安嗣に至る住宅建築の変遷に、その典型を見て取ることができるだろう。

※本連載は、『表現者』連載の「時がつきる場所」と併せて刊行します。